がん治療中の
低栄養対策は?
がん関連性低栄養への対策

がん患者で生じる低栄養のうち、「がん関連性低栄養」は、手術や放射線治療、薬物療法の副作用などによって栄養摂取量が低下することで生じます。
栄養摂取に悪影響を及ぼす副作用の代表例として、口腔内の症状が挙げられます。
なかでも口腔粘膜炎は頻度が高く、放射線や抗がん剤が口の粘膜へ直接作用したり、白血球減少に伴う局所感染症が影響したりすることで起こります。加えて、放射線療法や抗がん剤によって唾液の分泌量が減り、口の中が乾燥した状態になることもあります。
これらの症状への対策となるのが口腔内の衛生を保つことです。細菌の増殖が口腔粘膜炎の悪化につながるため、がん治療の前にむし歯や歯周病などを治療します。日常生活でも、できれば毎日2~4回のブラッシングなどで口腔内を清潔に保ちつつ、こまめなうがいを行うよう指導します1)。
薬物療法の副作用として、消化管への影響も挙げられます。
薬物療法によって消化管の運動を調節する副交感神経が影響を受ける、消化管粘膜が障害を受ける、などの理由で下痢や便秘が起こることもあります。その際は食事や生活習慣の工夫で対応することになります。
下痢であれば、香辛料や脂肪、食物繊維を控え、味付けも濃いものを避けるようにします。また、ビフィズス菌などのプロバイオティクス食品を摂取するなど、腸内環境を整えることも大切です。下痢では大量の水分が失われるため、こまめな水分補給も必要です。
便秘でもこまめに水分補給するほか、食物繊維やオリゴ糖を含んだものを摂取します。体を動かす、お腹をマッサージする、排便環境を整えるなど、生活習慣の改善も大切です。
がん誘発性低栄養の評価・対策
がん特有の病態による、栄養補給では解消できない低栄養を「がん誘発性低栄養」といいます。代表的な病態である「がん悪液質」は、通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、骨格筋量の持続的な減少がみられます2)。
がん誘発性低栄養は、がん関連性低栄養を併発していることが多く、早期から適切な対応ができるよう、がん誘発性低栄養が栄養障害の主な原因になっていないか確認することが大切です。
評価手段のひとつとして用いられるのが、グラスゴー予後スコア(GPS)という評価方法で、がんの進行度を問わずがん悪液質のスクリーニングに用いることができます。このスクリーニングでは血中のCRP(C-reactive protein)およびアルブミンの値を用いて評価します3)。GPSを日本で適用しやすい形に調整したmodified GPS(mGPS)も考案されています。
CRP (C-reactive protein) |
炎症が起こったときに産生されるたんぱく質。炎症の有無をみる指標で、がん患者における体重減少、QOLの低下や生存期間の短縮に関連することが報告されています。 |
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アルブミン (Albumin :Albと略) |
肝臓で産生されるたんぱく質。低栄養に陥っていないかを調べる指標のひとつとして用いられます。 |
がん悪液質に対しては、悪液質に対する薬物療法、流動食や栄養補助食品の使用、食事の指導といった栄養療法、筋肉量の減少を予防するための運動療法など、集学的治療を行うことが望まれます。
近年では、悪液質の原因である炎症をコントロールするための免疫栄養療法が注目されています。n-3系脂肪酸であるEPA(エイコサペンタエン酸)は、炎症の抑制や骨格筋量の維持・増加が報告されており、EPA含有栄養補助食品を摂取することで、患者のQOL(生活の質)の維持・向上が期待されています4) 5)。

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1)日本がんサポーティブケア学会「JASCCがん支持医療ガイド翻訳シリーズ 口腔ケアガイダンス第1版 日本語版」
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2)Fearon K, et al. Definition and classification of cancer cachexia: an international consensus. Lancet Oncol. 2011 May;12(5):489-95.
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3)濱口哲也, 三木誓雄: がん患者の代謝と栄養. 日本静脈経腸栄養学会雑誌. 2015; 30(4):911-916.
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4)日本緩和医療学会「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン(2013年版)」
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5)Shirai Y, et al. Fish oil-enriched nutrition combined with systemic chemotherapy for gastrointestinal cancer patients with cancer cachexia. Sci Rep. 2017 Jul 6;7(1):4826.
医療・介護従事者の方向けに、がん栄養療法関連ガイドブックをご用意しています。