がん治療を支える
栄養療法について

サルコペニアへの対策

サルコペニアは、手術後の死亡や再発、合併症の発症にかかわってくるとされています

がん患者に栄養障害を認める場合や、1週間程度経口摂取が不可能、あるいは不十分と予想される場合は、静脈栄養や経腸栄養を積極的に行うことが推奨されています1)
低栄養と関係する病態として、筋肉量の減少および筋力の低下がみられるサルコペニアが挙げられます。サルコペニアはがん患者においても増加しているといわれており、治療の際にも問題視されています。

必要とされる栄養素

がんの進行に伴い、体内で不足しがちな栄養素がいくつかあります。治療を進めるにあたってそれらを補うことも大切です。
ひとつは、筋肉量を維持するために欠かせないたんぱく質です。
がんの進行に伴い、筋たんぱくの分解が亢進します。また、食事で摂取したアミノ酸から筋肉を作るホルモンの分泌が低下し、筋たんぱくの合成が低下します1)
運動後に積極的にたんぱく質とエネルギーを摂取することが、筋たんぱくの合成に有用だと考えられています。また、BCAA(分岐鎖アミノ酸)には筋たんぱく質の合成を促進し、分解を抑制する働きがあるといわれますが、体内では合成されないため、食事から摂る必要があります。

もうひとつが、カルニチンです。
筋肉量の低下により、体内のカルニチン量が低下することも報告されています。
カルニチンは、脂肪酸からのエネルギー産生に重要な役割を担っています。がん患者の多くで欠乏しているといわれており、倦怠感を訴えた終末期がん患者に対し、カルニチンを投与したところ、倦怠感が軽減したという報告もあります2)

タンパク質やエネルギーを摂取できる食品と、BCAAを摂取できる栄養補助食品。
運動に加えてたんぱく質とエネルギーをしっかりと摂取することが、筋肉を維持し、サルコペニアの対策につながります。BCAAが豊富に含まれている食材や栄養補助食品を用いるのもおすすめです。

免疫栄養療法とは

悪液質の原因である炎症をコントロールするための免疫栄養療法が注目されています。
n-3系脂肪酸であるEPA(エイコサペンタエン酸)は、炎症の抑制や骨格筋量の維持が報告されています。

国内で行われた研究では、がん悪液質患者に対して、毎月のカウンセリングと免疫栄養療法を行った結果、薬物療法の継続日数と5年生存率が向上するという結果が報告されており、免疫栄養療法と併用することで、薬物療法による予後が改善できる可能性が示唆されました。また、EPA含有栄養補助食品を6ヶ月摂取することで、炎症の際に産生されるCRPの抑制や、骨格筋量の増加も報告されています3)

治療中の食事が大切とはいえ、食欲がわかないときもあるかと思います そうしたときは好きな食べ物を無理のない程度に食べていただくだけでもOKです 食べられない状態が長く続く場合は、少量で栄養価の高い栄養補助食品も役立ててください
  • 1)
    日本静脈経腸栄養学会(現:日本栄養治療学会)「静脈経腸栄養ガイドライン 第3版」
  • 2)
    中西順子他: L-カルニチンによる終末期がん患者に対する倦怠感緩和効果の症例集積報告. 日本緩和医療薬学雑誌. 2020; 13: 43-47.
  • 3)
    Shirai Y, et al. Fish oil-enriched nutrition combined with systemic chemotherapy for gastrointestinal cancer patients with cancer cachexia. Sci Rep. 2017 Jul 6;7(1):4826.

医療・介護従事者の方向けに、がん栄養療法関連ガイドブックをご用意しています。