摂食嚥下障害とは
摂食嚥下障害が引き起こす問題
食物は、口腔に運ばれたあと、咽頭、食道を経て胃へ運ばれます。この過程に異常が発生した状態のことを摂食嚥下障害と呼びます。
摂食嚥下障害が引き起こす問題はさまざまです。「食物を口にため込んで飲み込めない」「むせて食べられない」「食物がのどを通らない」など明らかな場合もあれば、肺炎を繰り返す方のなかには、検査で「むせのない誤嚥」が認められ、障害の存在がわかることもあります1)。
摂食嚥下障害が引き起こす問題のひとつである誤嚥は、誤嚥性肺炎の要因となります。脱水・栄養障害も問題で、抵抗力が弱まることが誤嚥性肺炎のリスクにつながるほか、嚥下障害をさらに悪くする悪循環をもたらすこともあります。また、障害で窒息したり、飲食ができなくなったりすることなどで食べる楽しみが失われると、QOLに大きくかかわってきます。
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1)藤島一郎:嚥下障害の機序と治療,リハビリテーション. 日老医誌. 2000; 37: 661-665.
摂食嚥下のメカニズムから見た摂食嚥下障害の原因
摂食嚥下障害は、主に脳卒中や神経疾患などに伴う神経・筋組織の機能的原因によって起こるケースと、腫瘍や手術で生じた器質的原因によって起こるケースが挙げられます。
5期モデル
(摂食嚥下の5つの過程)
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1先行期
(認知期)口に食物を運ぶ前を指します。視覚、嗅覚、触覚などから食物を認識し、かたさ、大きさなどを判断しています。脳卒中や認知症などによって認知機能が低下することで、この時期を中心とした障害が生じると考えられます2)。
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2)榎本麗子, 菊谷武, 鈴木章, 稲葉繁: 施設入居高齢者の摂食・嚥下機能における先行期障害と生命予後との関係. 日老医誌. 2007;44:95-101.
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2準備期
(咀嚼期)口腔内に食物を取り込んだ時点を指します。食物を咀嚼し、やわらかく咽頭を通過しやすい塊(食塊)を形成します。
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3口腔期
舌を使って、食塊を咽頭へ送り込む時期です。舌や頬、口唇で口腔内の圧を高め、食塊を送り込む動作を促します。舌癌の術後や、パーキンソン病などによる口唇、下顎、舌の運動障害が、準備期や口腔期を中心とした障害の原因となります。
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4咽頭期
嚥下反射によって、食塊を咽頭から食道入口部へ送り込む時期です。食道入口部が開大するとともに、声門が閉鎖して誤嚥を防止します。
パーキンソン病などによる嚥下反射にかかわる舌咽神経、迷走神経の障害などがこの時期の障害にかかわります。また、誤嚥のリスクが高まるのもこの時期です3)。-
3)日指志乃布, 福光涼子, 石田光代, 野寺敦子, 大谷尭広, 丸岡貴弘, 中村和己, 和泉唯信, 梶龍兒, 西田善彦:パーキンソン病における嚥下障害. 臨床神経 2016 ; 56 : 550-554.
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5食道期
食塊を食道から胃へ送り込んでいく時期です。食道入口部は食塊の通過後、筋肉が収縮することで閉鎖され、逆流を防ぎます。食道入口部の開大不全による通過障害などが、食道期の問題として起こり得ます。
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