摂食嚥下障害への
対応やケアについて

主要な役割を担う摂食嚥下訓練

摂食嚥下障害に対しては、精神機能や運動機能、呼吸機能、嚥下機能などの評価を踏まえ、適切な治療を行っていくことになります。
薬剤による治療や手術も選択肢に入りますが、嚥下機能の改善においては摂食法の工夫・呼吸訓練などの訓練が重要となります1)

なかでも主要な役割を担う摂食嚥下訓練には、飲食物を使わない間接訓練と、飲食物を使う直接訓練があります。
間接訓練は摂食嚥下にかかわる器官の運動や感覚機能を改善させることを、直接訓練は実際に飲食物を用いて摂食嚥下の上達を図ることをそれぞれ目的としています。

主な間接訓練
嚥下体操、口腔器官運動、頭部挙上訓練、バルーン法、のどのアイスマッサージなど
主な直接訓練
K-point刺激法、複数回嚥下法、交互嚥下法、横向き嚥下法、スライス型ゼリー丸のみ法など
  • 1)
    兵頭政光:嚥下障害診療ガイドラインの概要と活用法. 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報. 2021; 124(12): 1584-1589.

実際の訓練の例

例として2つの訓練について、具体的な内容を解説します。

間接訓練
嚥下体操

全身や頸部の嚥下筋のリラクゼーションを目的とした、摂食前の準備体操・基礎訓練です。
次の10項目を1セットとして行います2)

  • 2)
    日本摂食・嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会:訓練法のまとめ(2014 版). 日摂食嚥下リハ会誌. 2014; 18:55-89.
  • 1

    口すぼめ深呼吸

    鼻から吸って、口をすぼめて息を吐くことを数回繰り返す。
    嚥下体操1、口すぼめ深呼吸。鼻から吸って、口をすぼめて息を吐くことを数回繰り返す。
  • 2

    首の回旋運動

    右へ1回、左へ1回まわしたら左右に1回ずつ首を曲げる。
    嚥下体操2、首の回旋運動。右へ1回、左へ1回まわしたら左右に1回ずつ首を曲げる。
  • 3

    肩の上下運動

    肩をすくめるように上げ、力を抜いて下ろす。2〜3回繰り返したら、両手をまわす。
    嚥下体操3、肩の上下運動。肩をすくめるように上げ、力を抜いて下す。2〜3回繰り返したら、両手をまわす、
  • 4

    両手を頭上で組んで
    体幹を左右側屈
    (胸郭の運動)

    嚥下体操4、両手を頭上で組んで体幹を左右屈折(胸部の運動)
  • 5

    頬を膨らませたり
    引っ込めたりする

    2〜3回繰り返す。
    嚥下体操5、頬を膨らませたり引っ込めたりする。2〜3回繰り返す。
  • 6

    舌を前後に出し入れする

    2〜3回繰り返す。
    嚥下体操6、舌を前後に出し入れする。2〜3回繰り返す。
  • 7

    舌で左右の口角にさわる

    2〜3回繰り返す。
    嚥下体操7、舌で左右の口角にさわる。2〜3回繰り返す。
  • 8

    強く息を吸い込む
    (咽頭後壁に空気刺激を入れる)

    嚥下体操8、強く息を吸い込む(咽頭後壁に空気刺激を入れる)
  • 9

    パ、タ、カの発音訓練

    「パパパ、タタタ、カカカ」と、ゆっくりと5〜6回、次に早く5〜6回。
    嚥下体操9、パ、タ、カの発音訓練。パパパ、タタタ、カカカと、ゆっくり5〜6回、次に早く5〜6回。
  • 10

    口すぼめ深呼吸

    鼻から吸って、口をすぼめて息を吐くことを数回繰り返す。
    嚥下体操10、口すぼめ深呼吸。鼻から吸って、口をすぼめて息を吐くことを数回繰り返す。
直接訓練
横向き嚥下法

首を傾けることで反対側の咽頭部が広がります。それにより飲食物の咽頭通過がよくなり、誤嚥の防止や咽頭残留の軽減ができます。
咽頭機能の悪い側(患側)、食道入口部の開大不全がある側に頸部を回旋して嚥下するよう指示しましょう。

横向き嚥下法。嚥下機能の悪い側に頸部を回旋して嚥下する。

誤嚥性肺炎を防ぐための口腔ケア

摂食嚥下障害に対しては、機能維持・回復とともに誤嚥性肺炎の予防を目指すことも大切です。
誤嚥性肺炎の原因として、口腔内の細菌を唾液や飲食物とともに誤嚥することが挙げられます。そのため、口腔内の残渣の除去、口腔粘膜ケア、ブラッシングなどの口腔ケアによって、口腔内の細菌を減少させておくことが必要です。また、口腔内の汚れの蓄積によって引き起こされる口腔機能や味覚の低下を防ぐのも、口腔ケアの大切な役割といえます3)

  • 3)
    角保徳:嚥下障害患者における口腔ケアの意義. 日本老年医学会雑誌. 2013; 50 (4): 465-468.

口腔ケアの例

スポンジブラシを使った口腔ケア。
  • ブラシで歯と頬の間や、舌の下の汚れを拭き取る。奥から動かし、唇小帯がある歯の中央の手前までで止める。
  • 咽頭にブラシを当てないよう注意し、奥から手前に、左右へとしっかりこすって拭き取る。
  • 歯肉と頬粘膜の間もしっかり拭き取る。

食事内容や摂食時の指導も大切

摂食嚥下障害では食べ物を咀嚼し、嚥下する一連の動作が困難になります。
そのため、摂取する食事は、咀嚼しやすさ、口の中でのまとまりやすさ、飲み込みやすさなどが重視されます4)。ペースト状・ゼリー状などにやわらかさや形態を調整した飲み込みやすい食事は「嚥下調整食」と呼ばれており5)、摂食嚥下機能にあわせ、調理方法などを調整していきます。
また、摂食時の姿勢も重要です。たとえば、口腔から咽頭への送り込みに障害がある場合、誤嚥を防ぐためには背もたれを30~45度に起こして摂食するのが望ましいとされています6)

  • 4)
    大越ひろ:嚥下障害者のための食事, 日本食生活学会誌. 2007; 17(4): 288-296.
  • 5)
    日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021
  • 6)
    畑 裕香, 清水 隆雄, 藤岡 誠二:嚥下障害例における摂食時姿勢と食物形態の違いによる口腔通過時間の検討. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌. 2008; 12(2): 118-123.
摂食には身体の機能や口腔機能の状態も大きくかかわっているため、摂食嚥下障害の評価・適切なリハビリテーションの支援が必要になります。単に栄養状態を改善するだけでなく、食べる楽しみやQOLを向上させるという点でも重要です。

医療・介護従事者の方向けに、摂食嚥下ポケットガイドをご用意しています。